カニバリゼーションとは|防ぐためのポイントを解説
商品開発や広告宣伝といった企業のマーケティング活動を担当している方の中には、「カニバリゼーション」という用語を聞いたことがある方も多いでしょう。カニバリゼーションとは一体どのような現象で、どのようにして発生を防げるのでしょうか。
今回は、カニバリゼーションのデメリットや実際の事例、カニバリゼーションの発生を予防するためのポイントについて解説します。カニバリゼーションをあえて発生させる手法についても把握し、自社の売上が低下することや他社との競争に敗北することを防ぎましょう。
1.カニバリゼーションとは?
マーケティングにおける「カニバリゼーション」とは、社内やグループ内の製品同士で売上やシェアを食い合う現象を指します。似たような製品が同じ市場・ニッチを食い合う様子が共食いと似ていることから、この言葉が転用されるようになりました。
マーケティングの世界では、カニバリゼーションを戦力的に活用することもあります。一方、商品戦略の失敗などによって食い合いが起こり、意図せず自社に不利益を生じさせてしまうカニバリゼーションが起こることも珍しくありません。
1-1.カニバリゼーションの語源
カニバリゼーションとは、共食いや人食いを意味する英単語「cannibalization」が語源です。自社商品同士がシェアを奪い合う様子を「カニバる」と動詞化して表現することもあります。
2.カニバリゼーションのデメリット
カニバリゼーションが起こると、好調だと思われていた経営に負の影響を及ぼすおそれがあります。カニバリゼーションが引き起こすデメリットには、主に以下の3つがあります。
2-1.経営資源や従業員の労力を浪費する
1つ目のデメリットは、商品に投資した経営資源や従業員の労力を無駄にするという点です。
本来、会社の経営資源や従業員の労働力は、競合会社との差別化や市場における競争力強化のために使われるべきです。しかし、同じ企業内・グループ内に似通った商品AとBがあると、社内でシェア争いが起こるため、自社製品との競争に経営資源を使わなければなりません。
いくら経営資源を投じても同じ企業内で製品シェアを奪い合っているだけでは、会社全体の販売売上アップにはつながりにくいでしょう。仮に商品AがBの既存顧客を奪う結果になると、顧客が減少した商品Bに使った開発費や広告費などのコストが無駄になるリスクも大いにあります。
自社製品同士で潰しあうのは、それぞれの製品を販売するために投資した経営資源や社員の労力を浪費する行為と言えます。業績に大きなダメージを与える危険性もあるので注意しましょう。
2-2.自社の競争力が低下する
デメリットの2つ目は、市場における競争力の低下です。カニバリゼーションの発生によって、より消費者のニーズを満たした他社製品や新規参入企業に対抗する余裕がなくなり、競争力の低下を招くおそれがあります。
カニバリゼーションが起きている企業では、自社製品同士の差別化を図ったり販売戦略を工夫したりする必要があるため、競合他社への対策が疎かになりがちです。競合に対して十分な対抗策を講じられないと、他社製品に既存ユーザーを奪われてマーケットシェアが下がることが考えられます。
他企業が市場へ新たに参入するのを許してしまうケースもあります。同じ製品カテゴリーの競合企業が増えると既存シェアを奪われる危険性が高まり、自社の競争力をますます下げる要因になるでしょう。
2-3.製品・サービスの売上が減少する
3つ目のデメリットは、製品やサービスの売上減少です。自社内に同じ販売者層をターゲットにした製品がある場合、顧客の奪い合いが起こって結果的にどちらの製品も売り上げが伸び悩むおそれがあります。
新製品の売り上げが好調に伸びている場合でも、実際には既存商品の購入者が新商品に乗り換えただけであり、総合的に見ると企業の収益が増えていない場合もあります。
カニバリゼーションが起きている企業の弱点は競争力の低下です。業界における競争力が下がっている間にライバル製品に顧客を奪われてしまえば、会社全体の売り上げが大きく下がる危険もあります。
3.カニバリゼーションの失敗例
カニバリゼーションが意図せず起こると、多くの場合は経営上の失敗につながってしまいます。カニバリゼーションが発生した2つの事例を、以下で4つ紹介します。
3-1.ビール業界
ビール会社のA社は従来のビール製品に加えて、より安い価格で購入できる発泡酒の販売をスタートしました。価格が異なることから、「ビールを購入する層」と「発泡酒を購入する層」も異なり、売上アップが見込めると考えたためです。
しかし、実際に販売がスタートすると、ビールを購入していた層の一部が、ビールの代わりに発泡酒を購入するようになりました。同じ企業内でビール市場と発泡酒市場が食い合う結果となり、企業全体の大幅な売上アップは達成できませんでした。
3-2.飲食チェーン
飲食チェーンを展開するB社は、一般的には高い価格で提供されている食材を、品質を落とさず安価で提供することで有名になり、急速に店舗拡大を行いました。
しかし、同じ消費圏内に何軒ものチェーン店を展開するケースが多発し、同じエリアで顧客を取り合うという現象が多数発生しました。店舗ごとの売上は大きく伸びなかったことが原因で、経営が厳しくなってしまったと言われています。
3-3.アパレルメーカー
大手アパレルメーカーのC社はビジネスパーソン向けの衣料品販売を展開しており、全国的な知名度を誇る企業です。20代から30代の若い顧客をターゲットに、若年層でも気軽に利用できるサブスクリプションサービスを新たに展開することにしました。若い世代でも利用しやすい価格に設定したこともあり、順調に利用数も伸びていました。
しかし、実際にサブスクリプションを利用した人の多くは、既存事業のメイン顧客である40代の人々でした。その結果、既存事業との間に顧客の奪い合いが発生してしまい、サブスクリプションサービスはわずか半年ほどで撤退します。サブスクリプションサービスが早期撤退した理由は他にもありますが、カニバリゼーションが事業失敗の大きな原因になったことは言うまでもありません。
3-4.出版業界
出版業界は長らく本や雑誌を紙媒体で販売することが一般的でした。しかし、近年はスマートフォンやタブレットの急速な普及に伴い、手軽に読める電子書籍の需要が高まっています。
電子書籍のニーズの高まりを受けて、出版各社も本のデジタル配信を行っていますが、相反するように紙媒体の本の売り上げが低迷しました。デジタル配信によって引き起こされたカニバリゼーションは、出版業界を悩ませる大きな問題の1つと言えます。
4.カニバリゼーションが起こる原因
カニバリゼーションはターゲット顧客層や商品スペックの重複など、さまざまな要因で引き起こされます。カニバリゼーションに効果的な対策を講じるためにも、まずはカニバリゼーションを引き起こす原因を理解することが大切です。
以下に代表的な要因3つを紹介します。
4-1.ターゲット層が同じ・似ている
カニバリゼーションが起こる原因の1つが、ターゲット層の重複です。同じもしくは似たような顧客に向けて複数の商品を展開すると、自社商品内で売り上げを奪い合う可能性が高くなります。
例えば、発売中の商品に加えてさらに商品の特徴や価格が近い新商品を発売すると、既存品と新商品の間でカニバリゼーションが起こるおそれがあります。既存の顧客が新商品に流れて、企業全体としては売り上げが伸び悩む結果になるでしょう。
適正なターゲット設定をしていない製品の販売は、意図しないカニバリゼーションを引き起こし、業績にも負の影響を及ぼす危険があります。ターゲットを決める際は製品やサービスの分析はもちろんのこと、自社製品とカニバリゼーションを起こさないか検証することも大切です。
4-2.商品・サービスの差別化が甘い
一見すると商品・サービスの差別化ができているようでも、顧客に伝わりにくかったり差別化しきれていなかったりする場合は、カニバリゼーションが起きる状況を作ります。
例えば、同一分野で価格帯を差別化して製品を販売したとき、外見や製品性能などの差別化が甘いと、高価格品を購入する顧客が低価格品に乗り換えただけという結果になりかねません。製品同士の住み分けがうまくできていないと、販売顧客層を広げるどころか高価格品の売り上げが下がり、全体的な売り上げが伸び悩むことも考えられます。
また、WEBマーケティングの世界では、コンテンツ同士の差別化ができていないために引き起こされる「キーワードカニバリゼーション」と呼ばれる現象があります。キーワードが重複したコンテンツが複数あると、Googleの評価が分散するほかユーザーの混乱も招くため、WEB集客においてマイナスな影響が懸念されます。
4-3.ドミナント戦略の効果が逆に働いている
シェア拡大や地域での優位性を目的に導入したドミナント戦略が、カニバリゼーションを引き起こすこともあります。ドミナント戦略とは、小売店や飲食系のチェーン店などが1つの地域に集中的に店舗展開をして、競合他社に対する優位性を高めることです。
ドミナント戦略は特定地域における認知度向上や物流の効率化など、さまざまなメリットがあります。一方でデメリットに挙げられるのは、店舗数が大幅に増加したことで、既存店との間に顧客の奪い合いが生じるという点です。人口に対して過剰に店舗拡大したり、地域における需要の変化に対応できていなかったりと、店舗同士で成長しあうはずが、かえって顧客を争奪する結果になります。
出店戦略や需要の動向を正しく見極めていないと、ドミナント戦略は効果的に働かずにカニバリゼーションを発生させ、企業は経営戦略の見直しに迫られるでしょう。
5.カニバリゼーションを事前に防ぐための対策
ビジネスにおいてカニバリゼーションが発生すると、経営コストや社員の労力を無駄に消費してしまうおそれがあります。最悪の場合、競争力の低下や企業経営の悪化、企業の弱体化を招きかねません。では、カニバリゼーションを防ぐためにはどのようなことに注意するとよいのでしょうか。
ここでは、意図していないカニバリゼーションの発生を防ぐための対策として、カニバリゼーションを予防するための4つのポイントを解説します。
5-1.ターゲット・ペルソナの設定
カニバリゼーションを防ぐためには、製品やサービスのペルソナ(ターゲットのイメージ・消費者像)を明確に設定することが大切です。ペルソナが曖昧であったり、多くの人が該当するコンセプトを設定していたりすると、自社内の他の製品と顧客層が重複するおそれがあります。
次のような手順でペルソナを明確化して商品ポジショニングを確立し、自社の製品同士でターゲットが被ることを防ぎましょう。
ターゲット・ペルソナの設定方法 |
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(1)ターゲットに関わる情報を収集する (2)収集した情報を1人の顧客イメージに落とし込み、具体的な人物像を作成する (3)ペルソナはどのような製品・サービスに興味を持つか熟考する |
5-2.既存商品と差別化をする
自社の既存商品と使い道や楽しみ方が似ている製品を新規開発する場合、既存商品との差別化を図り、シェアを食い合わないようにすることが大切です。
例えば、音楽プレイヤーでは「小型化でスポーツ時にも邪魔にならない」「ディスプレイ付きでゲームや動画も楽しめる」といった差別化が図れます。アパレルの場合、「リーズナブルな価格帯のブランド」「良質で価格帯が高めのブランド」など、ペルソナによって既存製品をブランド分けすることも効果的です。
5-3.企業内での意識と情報を共有する
カニバリゼーションは、同じジャンルの製品を自社内で複数作れる能力のある企業で起こりやすい傾向にあります。比較的規模の大きな企業の場合、部署間・グループ間で意思疎通や情報共有がうまくいっていないことでカニバリゼーションが発生する可能性があるため、注意が必要です。
自社競争を防ぐためには、企業内で従業員同士の意思疎通を積極的に行うことが大切です。商品企画や商品開発、マーケティングの担当者、企業の経営者は、特に意識して意見交換の機会を作るようにしましょう。
5-4.企業組織の見直す
カニバリゼーションの発生を予防するには、企業組織を定期的に見直すことも効果的です。特に、カンパニー制の企業やM&Aで急拡大した企業はカニバリゼーションが起こりやすいため注意しましょう。これは、意思の決定権が分かれていたり、組織間の情報共有・意見交換が活発にできていなかったりすることが多いためです。
製品の販売を販売子会社や販売代理店に委託している場合、奨励金やリベートなどを目的に、企業間で競争しあうおそれがあります。販売店同士で顧客を食い合う状況が起こりやすいため、販売体制や組織体制、各企業・部署が担う役割を適宜最適化しましょう。
5-5.テストマーケティングを実施する
新商品の販売前に試験的に販売するテストマーケティングも有効な手段です。テストマーケティングによって事前にどのような顧客層が商品を購入しているのか把握できると、意図しないカニバリゼーションを防ぐことができます。
もし想定した顧客層とは違う顧客から反応が多く集まっていた場合は、新商品の発売を続行すべき精査する必要があります。
テストマーケティングは顧客のターゲット層をより明確にし、リスクを軽減できる点がメリットです。本格的な販売の前にぜひ活用しましょう。
6.カニバリゼーションが起こったときの対処法
カニバリゼーションが起こらないよう気を付けていても、実際に新商品の販売や新サービスをリリースすると、予期せず発生してしまう場合もあります。カニバリゼーションが起こったときは、すみやかに適切な方法で対処することが大切です。
以下ではカニバリゼーションへの対処法を3つ紹介します。
6-1.ターゲット層を変える
製品同士で顧客の奪い合いにならないように、ターゲット層を変更することは有効な手段の1つです。製品のターゲットが広ければ広いほど、他商品とターゲットが重複する可能性が高まります。そのため、カニバリゼーションが起きた際は、ターゲット層を絞って範囲を狭めると重複を避けやすくなるでしょう。
例えば、「30代男性」をターゲットにしたアルコール飲料部門でカニバリゼーションが起きている場合、「30代独身男性」のようにターゲット層を狭めると、製品同士の差別化がしやすくなります。
参入する市場セグメント自体を変更して、新たな顧客に対する製品やサービスの提供に転換したり、販売地域を変更したりする方法もあります。自社製品同士の顧客ターゲットを明確に差別化するにはどうするべきか、幅広い視野でさまざまな方法を検討することが重要です。
6-2.製品・サービスの拡大を抑制する
カニバリゼーションが起きたとき、既存製品やサービスの拡大を抑制することも効果的な手法です。例えば、既存品と新製品で売り上げが分散している場合には、収益性の動向を確認しながら、採算が合わない製品のプロモーション活動や広告掲載などを抑制します。代わりに売り上げが増加傾向の製品に注力することで、徐々にカニバリゼーションの解消を目指します。
カニバリゼーションを起こしている製品に同じだけ経営資源を投入したままでは、売り上げ増加は望めません。製品の採算性や成長性をよく吟味して、場合によっては製品やサービスの拡大を抑制することも大切です。
6-3.コストバランスを調整する
コストバランスの再調整もカニバリゼーション対策になります。既存品と新製品でカニバリゼーションが起きている場合、両方に同じようにコストをかけると無駄が生じるおそれがあります。成長する見込みのある製品に多くのコストを投じて、経営資源を効果的に利用できるようにしましょう。
反対に採算性が低い製品のコストカットを実行して、新規市場への参入や製品開発など有用な部門にコストをシフトすることも必要です。市場の動向や製品の収益性を精査しながらコストバランスを調整し、効率よく事業運営ができるように体制を整えましょう。
7.戦略的カニバリゼーションとは?
戦略的カニバリゼーションとは、意図的に引き起こされたカニバリゼーションを指します。本来カニバリゼーションは企業にとって好ましいことではなく、問題点のほうが多く感じられるでしょう。
しかし、マーケティング手法の1つとして戦略的カニバリゼーションを起こすと、市場シェア拡大による売り上げ増加が見込めるほか、自社内で切磋琢磨しながらサービス力を高めることもできます。
また、通常1社が高いシェアを誇る市場は、市場の硬直化が起きて市場自体の衰退につながるおそれがあります。しかし、戦略的カニバリゼーションでは自社内の製品同士で競争が生まれるため、市場が硬直しにくいという特徴があります。
カニバリゼーションの弊害を十分理解した上で、あえてカニバリゼーションを発生させると、シェアを獲得しながら企業価値を高めることが可能です。
8.戦略的カニバリゼーションの目的
多くの場合、意図せずに発生したカニバリゼーションは、企業に好ましい影響をもたらしません。しかし、企業やシチュエーションによっては、マーケティング戦略としてわざとカニバリゼーションを発生させることもあります。戦略的なカニバリゼーションを発生させる企業の目的や狙いは何なのでしょうか。
ここでは、戦略的カニバリゼーションを行う主な目的を2つ紹介します。
8-1.自社ブランドの市場シェアを拡大する
自社ブランドの市場シェアを拡大することは、戦略的カニバリゼーションを行う目的の1つです。
例えば、「同種のお菓子で少し味を変えた複数種類の製品を展開する」といった経営戦略が挙げられるでしょう。「どの製品を選んでも自社商品」といった状況を作り出すことで競合他社を排除できるため、自社の売上アップやシェア拡大につなげられます。
自動車メーカーのように、あえてターゲットを重複させた製品ラインを製造することで、自社製品の購入の選択肢を増加させることも可能です。このように、戦略的にカニバリゼーションを起こして自社内で競合を作ることで、ターゲット層を囲い込み、自社の製品ブランドの市場シェアを拡大することが期待できます。
8-2.自社内部で競争させる
自動車業界では、同じエリアに販売企業を何種類か作り、販売車種や営業エリア(商圏)の一部をわざと重複させてディーラー同士を競わせることもあります。
各会社で仕事に従事するスタッフは所属する会社の売上を上げるために、同系列の販売ディーラーと競争する状態となるため、経営効率が悪い手法であると感じる方もいるでしょう。
しかし、グループ企業内や自社内で互いに切磋琢磨することにより、サービスの向上や他社製品を求める顧客の取り込み・該当地域における他社ディーラーの参入の防止を図れます。結果的に売上アップや販売シェアの拡大が見込めるため、戦略的カニバリゼーションをあえて発生させるケースもあることを覚えておきましょう。
9.戦略的カニバリゼーションの活用事例
カニバリゼーションはデメリットが目立ちがちですが、戦略的に活用することで収益の拡大が期待できます。実際にあったカニバリゼーションの効果的な活用事例を4つ紹介します。
9-1.自動車メーカー
トヨタをはじめとする自動車メーカーは、戦略的カニバリゼーションを行っている代表例です。同一エリアに複数店舗を展開して戦略的にカニバリゼーションを起こすことで、地域における市場シェアの確立を図っています。競合他社の出店を抑制しつつ、企業全体としてシェアを最大限まで伸ばすことが目的です。
同一エリアの販売店同士で競争しあうため、サービス品質の向上も目指せます。サービスが良い店舗やディーラーにはリピーターが付きやすいため、新しい車に買い替える際にも引き続き同じメーカーの車種から購入してもらいやすくなります。
9-2.コンビニエンスストアチェーン
コンビニエンスストアチェーンも戦略的カニバリゼーションを活用している業界です。例えば、セブンイレブンはドミナント戦略の一環としてカニバリゼーションを起こしています。同じ地域に多数の店舗を出店することで、エリア内のシェア独占が可能になるためです。
近隣に同じ系列のコンビニエンスストアがあると、流通コスト面で効率が良くなります。そのため、商圏が重なり顧客の奪い合いが起きるというデメリットを受け入れた上で、コストの効率化や市場における優位性を目的にカニバリゼーションを意図的に採用しています。
特にフランチャイズ展開を行っているコンビニエンス業界は、カニバリゼーションによるリスクを本部と店舗オーナーとで分散させることが可能です。そのため、他業界よりも際立って戦略的カニバリゼーションを活用していると言えます。
9-3.輸入販売業者
海外からの輸入品をオンラインショップで販売していた小規模事業者A社も戦略的カニバリゼーションを活用して事業拡大に成功しました。A社はサプリメントの輸入販売を計画中に、ECショップで人気が高いアイテムの類似商品をOEM(相手会社の製品を製造受託すること)で生産・販売することを考案します。
類似品の販売はカニバリゼーションを引き起こすおそれがありましたが、戦略的意図が功を奏し、収益拡大に成功しました。現在もOEMによる製造販売の経験を生かして企業規模を拡大させています。
9-4.地方都市の老人ホーム
地方都市にある老人ホーム運営会社Bも、カニバリゼーションによって収益増加を実現させています。B社は都市部の高齢者層の増加に目を付けて、介護付き有料老人ホームをオープンさせました。今後も需要が増加することを見越して、同じ市内に複数の老人ホームを展開しています。
適切な顧客層の設定と質の高いサービスによって、B社の老人ホームはカニバリゼーションが発生していても収益化に成功しました。
まとめ
カニバリゼーションとは、自社製品同士が売上やシェアを食い合う現象です。意図しないカニバリゼーションの発生は、経営資源の無駄な消費や他社との競争に対する耐久力の低下を引き起こすおそれがあります。ペルソナの明確な設定や既存商品との差別化、販売組織の見直しなど、要所を押さえた製品開発を行い、カニバリゼーションの発生を防ぎましょう。
一方で、戦略的にカニバリゼーションを引き起こしたことによる成功事例もあります。失敗例や成功例を参考に、カニバリゼーションの予防・活用を使い分け、リスクを回避しながら自社の売上アップや他社競合製品との競争の勝利を目指しましょう。
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