マーケティングに活用される行動経済学10選|従来の経済学との違い
行動経済学は既にマーケティング手法として広く取り入れられており、広告やプロモーション、価格設定などさまざまな場面でよく見かけるものです。行動経済学の知見をマーケティングに活かすことで、消費者の購買意欲を高め収益拡大につなげられます。
この記事では、「行動経済学とは何か」や「従来の経済学との違い」を踏まえた上で、マーケティングに活用されている10の事例を紹介します。マーケターにとって必須の知識となった行動経済学を知り、成果に結びつくマーケティング施策の参考としてください。
1. 行動経済学とは
行動経済学とは、人間の意思決定や特定の行動を取る原因に焦点を当てることで、経済社会に与える影響や政策に応用するための方法を研究する学問分野です。人間の行動や心理を研究対象とする他の学問を応用しながら発展してきた経緯があり、特に心理学は人間の行動を説明するという点から行動経済学に多く取り入れられています。
1-1. 従来の経済学との違い
従来の経済学は、個人の消費行動や企業の利潤最大化、政府の景気対策といった問題に対する理論的な枠組みを提供してきました。しかし、その理論は「人間は常に合理的な判断のもとに行動する」という前提の上に成り立つものです。感情や心理にその行動が左右されることが人間の現実であり、必ずしも従来の経済学が想定する結果に至らないケースがあることもわかっています。
行動経済学は、従来の経済学が前提としてきた「人間は合理的で利己的な基準で行動する」という立場を取っていない点で大きく異なります。非合理的な行動を取ってしまう人間の心理的側面からアプローチし、意思決定や選好といった個人の行動を解き明かす学問が行動経済学です。
2. マーケティングに活用される行動経済学10選
マーケティングは「売れる仕組みを作ること」であり、仕組みを作るために、売る対象となる消費者の行動を理解することが求められます。この点で個人の意思決定や選好に関する知見を得られる行動経済学は、マーケティングとの親和性が非常に高い学問です。
行動経済学をマーケティングに取り入れることで、消費者が購入に至る意思決定プロセスやブランド選好に関わる要素を設計することが可能となります。ここでは、行動経済学がマーケティングに応用されている10の例を紹介します。
2-1. アンカリング効果
最初の印象がそれに続く判断に影響を与えてしまうことを「アンカリング効果」と言います。価格の提示方法として、以前から取り入れられるマーケティング手法です。
代表的な例としては、希望小売価格と販売価格が併記された価格表示方法が挙げられます。希望小売価格よりも安い販売価格を提示することで、割安感を印象づけることが可能です。希望小売価格が基準(アンカー)となり、消費者はその価格差をもとに販売価格がどれだけ安いかを判断します。
2-2. バンドワゴン効果
バンドワゴン効果は、アメリカの経済学者であるライベンシュタインが提唱しました。多くの人に支持されているということが選好や判断に影響を与え、支持を集めている選択肢にさらに多くの支持が集まる現象がバンドワゴン効果です。
行列のできるラーメン店に、つい並んでしまう現象が「バンドワゴン効果」の一例として挙げられます。
2-3. ハロー効果
「ハロー効果」とは、わかりやすい特徴に全体の評価が引きずられてしまうことを指します。学歴や容姿が能力や人柄の評価に影響してしまうことは、よく見られるハロー効果と言えるでしょう。
ハロー効果をマーケティングに活用している事例が、広告に有名人やイメージキャラクターを起用することです。有名人やイメージキャラクターによって商品のイメージを印象づける心理効果があります。
ハロー効果はプラスの効果ばかりではなく、悪い印象を持たれてしまうことでマイナスに働くケースもあることに注意が必要です。
2-4. フレーミング効果
判断の枠組みとなる条件の提示方法を変えると、判断の結果が変わってしまう現象が「フレーミング効果」です。同じ事柄や内容であっても、表現方法や視点を変えることで印象や受け取り方が変わってしまうことは多く見られます。
マーケティングにおいては、広告コピーやセールストークのなかでフレーミング効果が活用されています。「1個につき100円割引します!」と「1ダースで1,200円分の割引です!」では同じことを表現していますが、後者のほうが大幅に安く感じられるでしょう。選ぶ言葉や言い回しを変えることで、認知の枠組み(フレーム)が変わり、受ける印象が大きく変わります。
2-5. サンクコスト効果
「サンクコスト」とは、回収することができない過去の費用のことです。経済学や経営学では投資判断を行う際にサンクコストは考慮しないことが合理的とされています。しかし、個人の日常生活のなかでは、支払った費用・費やした時間と労力に対する結果が見合わなければ、かけたコストを正当化したいという心理が働きます。
サンクコスト効果を利用した好例が、模型のパーツを部分ごとに付録とした月刊誌です。途中でやめるとそれまでの費用と時間が無駄になるという消費者心理が働き、模型が完成するまで月刊誌を購読し続けることになります。
「コンコルド効果」もサンクコスト効果と同じ意味で用いられます。
2-6. ウィンザー効果
当事者から直接発せられた情報よりも、第三者を介して伝えられた情報のほうが信頼されやすい傾向は「ウィンザー効果」と呼ばれます。
「口コミ」がウィンザー効果の代表例です。多くの通販サイトで商品についての口コミを掲載し、購入者という第三者から商品の効用を語ってもらうことで、商品情報に対する信頼性が高まります。
2-7. プロスペクト理論
「プロスペクト理論」は、行動経済学の第一人者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが、2002年のノーベル経済学賞受賞のきっかけとなった研究です。
プロスペクト理論によれば、現実の人間は合理的な意思決定を行っているのではなく、感情や感覚による歪みを伴って行動していると考えます。具体的には、当選確率が1,000万分の1に満たないような宝くじに当選を期待してしまう心理が挙げられます。
プロスペクト理論は、どんなに小さな確率であっても、認知に歪みがあると、それを過大評価してしまう現実の人間心理・行動を説明できる理論です。
2-8. 現在志向バイアス
「バイアス」は認知の歪みをあらわし、「現在志向バイアス」は将来の利益よりも目前の利益のほうが魅力的に感じられることを指しています。貯蓄して後で楽をするよりも、今欲しいものを買う満足のほうを重要と考えてしまうことは現在志向バイアスの結果です。
クレジットや分割払いを勧めて今すぐ手に入ることを強調することも、現在志向バイアスを利用した販売方法と言えます。
2-9. 損失回避
「得」と「損」を並べて比較した際に、損をしないほうを優先してしまうことが「損失回避の法則」です。利益の額と損失額が同じであったとしても、損をした際の悔しい気持ちが、得をした際の嬉しい気持ちよりも大きく感じられ、損得の感情には非対称性があります。
下記は、損をしたくないという心理をマーケティングに活用する事例です。
■「旧型の機種をこのままお使い頂くと電気代が年間2万円多くかかります」
=新型に買い換えないことによるデメリット(損)の強調
■「効果がなければ全額返金!」
=返金されるため買っても損をしない
2-10. 希少性の法則
多くの人が求めているにもかかわらず、数が限られていて入手しにくいことを希少性と言います。希少性があるものほど、価値があると感じてしまう傾向が「希少性の法則」です。
マーケティングのなかでは、「数量限定商品」や「期間限定セール」などが希少性の法則を使った例に当たります。「供給量が少ない」「手に入る期間が限られている」といった状況を作り出すことで、消費者は購入すること自体に価値を感じ、購入を決断しやすくなります。
まとめ
行動経済学の知見は、マーケティングにおいて消費者を購買行動に導く仕組み作りのヒントとなります。現代のマーケティングでは、商品やサービスの市場は既に成熟しており、消費者への働きかけに関してより精緻さが求められている状態です。
行動経済学を利用することで、売れにくい現状のなかで、ライバルに差を付けることができます。この記事で紹介した行動経済学の基本的な考え方を理解して、マーケティングや営業活動の具体的な戦略作りに活かしてください。
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